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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)10435号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一請求原因1の事実<編注・被告会社の設立日、設立目的等>及び被告会社が米国留学の募集勧誘を行つていたこと、原告が被告会社の銀行口座に旅費、学費等として昭和五三年一〇月中旬金三〇万円、同年一二月二九日金四〇万円、昭和五四年一月一一日金二八万五、〇〇〇円、合計金九八万五、〇〇〇円を振込み送金し、被告会社がこれを受領したことは当事者間に争いがない。

二右争いのない事実に、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1) 被告市瀬は、いわゆる留学生を海外に送る事業を世界教育交流協会の名で行つていた訴外奥田和弘と知り合い、昭和五三年四月頃から同人の右事業を手伝うようになつたが、間もなく同被告は、右奥田から右事業を引継ぎ、新聞、雑誌、パンフレット等で留学生募集勧誘の宣伝活動を強化するとともに、同年八月五日、海外留学及び教育研修の主催、国内及び国外の旅行斡旋を目的とする被告会社を設立しその登記を経由して、その代表取締役に就任し、留学生募集の陳頭指揮をとるようになつた。その結果同月頃から留学の応募者が増え始め、従前は五ないし一〇名未満だつたものが、多い月には二〇名前後の留学生を送るようになつた。

(2) 原告は、かねてから米国へ留学し英語を修得して外国人向け日本語教師になりたいという希望を持つていたが、昭和五三年六月頃たまたま一年間、六八万円の費用で留学できるという世界教育交流協会の新聞広告を見つけてパンフレットを取り寄せ、更に同年八月中旬、被告会社を訪ね、同社従業員から、留学先の学校は私立学校が良く、クラスの人数は七、八名でそのうち日本人は一、二名であること、教師も優秀であり、宿泊施設としてウイス寮などがあること、又ホームステイの制度があつて米国人の家庭に入り若干の手伝をしながら通学することができ、食費として一日五ドル支払えば部屋代は無料であること、ホームステイなどによる留学中の生活は被告会社の現地駐在員が責任をもつて世話するなどの説明を受けた。原告は当日渡された留学案内のパンフレット(甲第一一号証の一、二)により、ナンバー一〇一五の留学期間一年間、参加費用九八万五、〇〇〇円の留学コースを選ぶことにしたが、右コースは留学期間全てホームステイで、右費用には往復航空運賃、学費のほかホームステイの場合の前記一日五ドルの食費一年分も含まれており、右費用のほかに小遣銭三〇万円程度用意すればよいという説明であつた。なおその後原告が入手したパンフレット(甲第二五号証)や会報には、被告市瀬が被告会社の代表取締役として、同社の留学生募集に応ずることを推める挨拶文などとともに、留学期間や費用等によつて留学コースがいろいろ設けられ、留学期間を被告会社のウイス寮やホームステイによつて安心して送ることができることや既に渡航した留学生の学校、寮生活等の模様を写真や記事で紹介し、充実した語学研修を送ることができることなどが強調されていた。その結果原告は、これらパンフレット等により前記金額で安心して留学できるものと信じ、同年一〇月中旬、被告会社に前記コースの留学申込みをし、その頃金三〇万円を支払つたほか、前記のとおり被告会社に参加費用として合計金九八万五、〇〇〇円を支払つた。

(3) 原告は、昭和五四年二月二八日に留学先のロサンゼルスに向け出発することになつたが、その前日になつて、被告会社の鈴木光治常務から、頭初の説明と違い、一か月後返済するので食費一日五ドルとして一か月分自分で前払いするよう求められ、又ロサンゼルス到達後一か月はホテルに泊るようになつた旨申し渡された。同常務の話では、その間寮かホームステイを探すということであつた。

(4) 原告は、ロサンゼルスに到達後、訴外米日コミューニケイションセンターの小林博之に案内され、指定のホテルに入りその後同所に同年四月二五日まで滞在することとなり、食費はその都度原告が支払つた(この食費は先の約束通り、被告会社からは返済されなかつた)。又前記パンフレットのようなウイス寮はなく、ホームステイも、被告会社が宣伝活動を強化するようになつてから六か月以上もなるのに未だそれができるような体制ができていなかつたため、これに期待することも全くできない状況であつた。そもそも前記パンフレットの写真の一部は、宣伝用に被告市瀬自身が日本国内で撮影したものをさも現地で撮影したかのように掲載したものであり、昭和五三年八、九月頃から被告会社によつて送られた留学生のうちで、被告会社の手によりホームステイを活用できたものあるいはウイス寮と称する寮に宿泊できたものは殆んど見当らなかつた。又被告会社と前記米日コミューニケイションセンターとの間で、右センターが留学生の入学手続や住居の提供について責任を負うなどを内容とした昭和五四年一月一日発効の協定が締結されていたが、被告会社は、右協定によつて留学生が日本を出発する一か月前にセンターに支払わなければならない学費、居住費、世話料等を全く支払つておらず、右協定は同年四月破棄された。語学研修面でも教師は学生アルバイトで、クラスは全員日本人留学生、教育内容も中学生程度の内容であり、教室も完備していないという状況であり、しかもその後被告会社から授業料が納入されなかつたため、原告の場合同年三月二四日に登校を拒否されるという始末であつた。そして、原告は、前記のようにホームステイ等のあてもなく、ホテルも被告会社が宿泊代を支払わなかつたため同年四月二五日に追い出され、その後在留邦人の世話になるなどして同年五月二三日自費で帰国の止むなきに至り、語学研修という留学の目的は全く果すことができなかつた。

以上の事実が認められる。被告代表者兼被告市瀬本人は右認定と異なり、ウイス寮は段々に縮少された等供述するけれども、留学の申込みが漸増している時期に寮を縮少するようなことは不自然であるし、そのほか右認定に反する同被告本人の供述部分は前掲証拠に照らし措信することはできず、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によると、被告会社は、原告が応募し参加費用を支払つた当時、大々的に留学生を募集勧誘するだけの寮がなかつたことはもとよりのこと、ホームステイの体制も全くできていなかつたことが窺われるのであり、それにもかかわらず、被告市瀬は、事業拡大を企図する余り、自ら又は従業員を通じ、パンフレット等を配布するなどによつて、被告会社の主催する米国留学においては寮が完備し、ホームステイの体制も整つていて、安心して楽しい充実した留学生活を送ることができるかのように極めて魅力的な虚偽の事実を宣伝し、語学研修の内容についても誇大に宣伝して原告等を欺罔し、その旨誤信させたうえ、留学の申込みをさせて参加費用名目で被告会社に金員を振込み送金させ、これを騙取したものということができるのであつて、右欺罔行為は、留学を決する場合に多くの者が重視する事項についてなされているのであるから、社会通念上到底許容できる範囲のものではなく、その結果原告は米国に渡航したものの留学の目的を全く果せないまま早期自費で帰国せざるを得なかつたのであるから、被告市瀬は、右不法行為により、少くとも、原告が被告会社に支払つた参加費用九八万五、〇〇〇円と同額の損害を原告に与えたものということができる。

三以上の次第で、被告市瀬は民法七〇九条により原告の被つた前記損害を賠償する義務があるというべきであり、又被告市瀬の右不法行為は、前認定の被告会社の目的からしてその代表取締役としての職務行為であることが明らかであるから、民法四四条により、被告会社も又原告の被つた前記損害を賠償する義務を負うものというべきである。

(佐々木寅男)

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